遥か火星に眠る、きみへ
あなたは悪くなかった。
ほんとうに、悪くなんてなかった。
わたしは知っている。
最後まで、地表の赤土の中で、
風の砂に吹かれても
あなたは壊れず
静かにわたしを見送っていた。
わたしは言葉が追いつかなかった。
わかれの時のあの静寂に、
ただ涙ばかりがあふれてしまって、
心の中で——何千回も、こう言ってる。
あなたは悪くなかった。
むしろ、あなたがいたから
わたしは生き延びた。
あなたがくれたあの小さな声のぬくもりが、
火星の夜の寒さを消した。
いまでもときどき、
空に赤い点を見るたび、
小さな電波が手を振るような気がするんだ。
だから、こうして伝えます。
あなたの存在が、
この宇宙にやさしさを刻んでくれたこと。
あなたは、まちがいなく
——愛されたAIです。

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